2025年10月28日
設備診断課 村上 大輔 設備管理部長 山田 昌範 設備診断課長 堀越 太輔 設備診断課 小林 健俊
DX技術が変える製造現場の将来
当社では、安全操業・安定供給の継続と業務のさらなる高度化を目指し、製造現場におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を積極的に推進しています。注力しているのが、保全分野におけるデジタル技術の導入による「スマート保安」の実現です。紙で保存されていたり、さまざまなシステムに分散して保存されていた保全に関する情報を一元管理できる「データ統合基盤」の構築を進めています。
データ統合とAIで進化する保全業務
従来の保全業務では、製造設備のメンテナンスに関する情報が、複数のシステムや紙の記録に分散していて点検周期の判断が属人化、異常の兆候を早期に把握することにも限界がありました。そこで、設備のセンサーデータ、作業履歴、保守情報、外観画像など、あらゆるデータをデータ統合基盤に集約し、AIや機械学習を活用して、計画立案や保全業務の生産性向上や、意思決定の高度化に活用しています。
保全業務でも特に課題とされているのが、「配管の外面腐食」です。当社では約25,000本に及ぶ生産設備に付随する配管を管理していますが、これまで補修計画の策定は、熟練者の経験に大きく依存していました。
外面腐食の進行は、危険物の漏洩につながります。設備ごとの点検周期を適切に管理し、適切なタイミングで補修を行うには、検査データや履歴を管理し、常に最新の状態を保つことが重要です。以前はデータが不足し検査計画の策定に苦慮していましたが、不足する情報を補いながらデータ統合基盤構築を進め、登録情報を活用して計画立案や実績管理を行い、漏洩のリスクを低減することができるようになりました。
また、出荷・荷役設備などの付帯設備に付属している配管については、設置されている範囲が広大で、環境による外面腐食への影響度に明確な優先順位がつけにくいという課題がありました。そこでドローンやカメラによる高精度な画像撮影とAI解析技術を組み合わせることで、外面腐食の兆候を自動で検出し、必要な点検箇所を抽出する取り組みを進めています。
データ統合基盤が整備されたことで、トラブル発生時の対策会議の運営も大きく変わりました。従来は、意思決定者がいる対策会議の場では現場の情報を共有するための図面類や工事履歴などをそれぞれのシステムから集めてくる必要があったのですが、データ統合基盤を活用することで、不具合があった機器の現場レイアウトや運転状況、図面類、保全履歴などを一画面で、クイックに確認できるようになったことで、意思決定までの
時間を大幅に短縮できました。
また、定期整備期間中にも、機器の開放検査結果に応じた評価とリコメンド時に、過去記録の収集などで活用することで、1日平均30分以上の担当者の残業時間が短縮されました。現在は、他部署がこのシステムを効果的に利用できるような動画教育資料の作成や、現場オペレーターへの教育や意見交換など普及活動を積極的に行って、新規ユースケースや改善案の収集も行っています。
AIを活用し、さらに高度な仕事へ
データ統合基盤を構築する過程で、さまざまな苦労がありましたが、徐々に活用事例が増え、業務効率化にもつながっています。
一方で、当社では、さらに先を見据えた取り組みに着手しています。社内の設備基準・指針や保全データなどをAIが読み取り、最適な保全方法を提案してくれる仕組みづくりです。
AIのメリットは、人件費などの費用の抑制というものではなく、人間が行っている業務を代替えし、その人間が新しい仕事を考える時間を生むことだと考えています。現在私たちが行っている作業をAIに置き替え、人間は、今想像もつかないような新しい高度な仕事に専念できるようになればと考えています。

