
2023年度は非常に厳しい中計のスタートでしたが、
取り組むべき課題が鮮明になりました
2023年度からスタートした当社の中期経営計画(以下、中計)は、「変革への挑戦」をスローガンとして、従来の考え方にこだわらず、変化や失敗を恐れずにチャレンジしていくことの大切さへの思いを込めました。今回の中計では、前中計における投資を回収しながら、化成品の生産・販売の増強を図り、半導体レジスト用樹脂では、世界トップシェア企業としての責任を果たすべく投資を計画しております。サステナビリティ、ガバナンスなど、非財務の課題についても、一体となって取り組む計画を策定しました。
2023年度は非常に厳しいスタートとなり、国内の誘導品需要の減退が継続したことに加えて、想定以上にアジアのオレフィンマーケットが下落したことから、当社のエチレンプラントの稼働を調整せざるをえませんでした。
こうした厳しい経営環境の中でも、販売価格の改善や販路の変更、工場と間接部門での固定費の削減など、従業員の一つひとつの努力は実を結んでいます。しかしながら市況の影響は避けられず、安定的な収益を確保するためには、事業構造の改革が最大の課題であると再認識しました。
一方で、需要が旺盛な製品へは、投資の決定も行いました。化粧品用途向けに引き合いが多いマルカゾールR(イソドデカン、イソパラフィン系溶剤)生産設備の拡張に着手し、2024年度内の完成を見込んでいます。これにより、今後のシリコーン規制による切り替えの需要、特に海外の需要を取り込めると考えています。
半導体レジスト用樹脂については、市場の在庫調整の局面から全体の販売数量は減少しましたが、EUV(極端紫外線)リソグラフィ対応などの高機能品の需要が伸長したこともあり、一定の利益を確保することができました。半導体レジスト用樹脂のうち、ArF(フッ化アルゴン)製品生産設備の増設も進めており、伸長する需要に応えられる体制を確立することが引き続きの課題です。
当社の強みは、「インテグリティ」を
根底とした社内の風通しの良さと人との
つながりの強さだと再認識しました
私は、社長に就任して以来、「インテグリティ」を自身が経営にあたる際の規範としてきました。当社の行動基準「CC10(Chemiway Commitment 10)」の10個の項目一つひとつの根底には「インテグリティ」があり、これを守っていくことがステークホルダーの皆様との信頼関係の強化と会社の成長につながると考えています。
当社の強みが人であることも変わりません。人のつながりの強さや、風通しが良い職場環境、そしてお互い助け合う風土がコミュニケーションを活性化させ、苦しい時を乗り越える力を生み出すものと考えています。これらの変わらないものを大切にしつつ、スピード感を持って新しい課題にチャレンジしていくことが大切だと考えています。
もう一つ、当社の強みとして強調しておきたいことは、コスモエネルギーグループ、特にコスモ石油株式会社との連携強化です。インフラの有効活用と未利用留分の活用に関する共同研究がスタートし、石油精製と石油化学の全体で競争力をさらに発揮できた一年でした。

2023年度国内外の情勢は厳しい状況で
推移しましたが、今後は半導体レジスト用
樹脂の需要拡大を見込んでいます
2023年度は、ロシアのウクライナ侵攻に端を発したエネルギー資源価格の高騰が続く中、長期化するインフレ圧力や、中国経済の低迷が影響して、世界経済全体の減速が継続した年でした。日本では、サービス消費やインバウンド需要などの復調がありましたが、半導体市場の低迷継続などが下押し要因となり国内経済は低成長となったほか、インフレに伴って実質賃金も低下したため、個人消費も減少傾向となりました。
石油化学事業においては、中国を中心としたエチレンプラントの新増設の影響により多くの石油化学製品の需要が緩んだことから、日本のエチレン生産量も前年度比マイナスとなりました。当社にとっても、エチレンプラントの低稼働が続く厳しい年でした。統廃合など構造改革を進めてきた日本のエチレン設備に再び試練の時が来ているように思います。

そのような状況の中で、半導体レジスト用樹脂については、長期的に世界的な需要の伸びが予想されます。半導体フォトレジストは高純度であることなど高い品質が求められるため、日本企業が強く、90%の世界シェアを有しています。当社の半導体レジスト用樹脂もそれに伴って、さらに需要は拡大していくと見込んでいます。
また、気候変動への対応やその影響が懸念されていますが、脱炭素は石油化学産業が新たな付加価値をつける好機でもあると捉えています。当社も、千葉工場がある京葉地区で、すでにコンビナートのカーボンニュートラル実現に向け自治体も含めた連携を始めています。多くの組織が連携し、燃料や原料、製品のグリーン化、そして運営の最適化の実現を加速することで、社会に向けた価値貢献ができると考えています。
若手とともに策定した長期ビジョンが
社内に浸透し、新時代を切り拓くための
チャレンジマインドが醸成されました
長期ビジョンを当社として初めて策定したことで、従業員からは「当社の強みを実感することができた」「若手と経営陣が考える方向性が近いと感じた」「ビジョンや情報を共有することの大切さを実感した」などの声がありました。私自身も従業員と双方向のコミュニケーションを行う「経営トップキャラバン」などの機会を通じて、長期ビジョンについて説明したり、意見を直接聞いたりする場を設けました。「石油化学」という産業自体の将来に不安を覚えている従業員もいる中で、当社の強みや、今後の取り組みなどについても説明したうえで、変化や失敗を恐れずにチャレンジしてほしいという強い気持ちを伝えられたのは、中計の初年度にあたり、良い機会だったと思っています。2023年は、特に千葉工場で長期ビジョンの説明を重ねたこともあり、従業員意識調査の結果でも、長期ビジョンに対する理解度は高いスコアとなっていました。こうした結果に触れると「経営トップキャラバン」を行ったかいがあったと実感できます。

また、長期ビジョンの「2030年のゴール」の一つとして挙げていた「基礎化学品、機能化学品に続く第3の収益の柱の構築」を具体的に進めるため、新規事業探索の組織を立ち上げました。当社が今まで蓄積してきた技術力と、新たな視点を組み合わせた新規事業が立ち上がることを期待しています。
非財務中期経営計画においても、
目標と施策の両面で目標に向かって着実に
取り組みが進展しています
カーボンニュートラルへの取り組みについては、当社においては、エチレンプラントから排出される二酸化炭素の削減が重要となります。当社では、2022年より国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業(GI基金)に採択された「エチレンプラントにおけるアンモニアの燃料化」と「廃プラスチックのケミカルリサイクル」の2つの技術開発をコンソーシアムとしてスタートしています。どちらのプロジェクトも当初計画どおりに進捗しており、2030年の実証を目標としています。
また、「クリーンなエネルギー・製品・サービスの提供」を実現するため、2023年度には「ISCC PLUS認証(国際持続可能性カーボン認証)」を取得しました。お客様のニーズに対応した、バイオマスやリサイクル原料を用いた製品群を販売できる体制を整備していきます。
安全操業・安定供給については、工場の高経年化も進み、工場の安全を担保しながら、保守作業の効率化などに対応するための一つの方策として、スマート保安の推進が求められています。千葉工場では、高圧ガスA認定、いわゆるスーパー認定の取得にチャレンジします。
また、デジタル変革(DX)の力を活用して、設備の保全にかかるデータをすべて一元的に管理・参照できる「データ統合基盤整備」のプロジェクトを推進しています。2023年10月には千葉工場において、データプラットフォーム基盤となる「Cognite Data Fusion®」を試用し、操業の可視化やIT/DXを活用した業務効率化に取り組み始めました。また、工場における装置のVR化も推進しています。現場に出向くことなく、オフィスのパソコンの画面でメンテナンス箇所の詳細な位置や形状などが確認できるなど、補修計画策定の効率化が図れます。さらに、今まで現場では紙ベースで運用していた検査記録を電子化し検査員に気づきを与える活用や、過去から積み上げてきた保全ノウハウを現場でスマートフォンを使って簡単に参照できる「ノウハウDB」など、現場で使用できるDXを加速させています。今後は、例えば、煙突内の断熱材の状況をドローンで確認するなど、高所作業でのドローン活用も推進していきたいと考えています。

変化や失敗を恐れずにチャレンジ
していくための全社的な
業務改革をスタートさせました
中計の活動の一環として、全社の業務改革(業革)のプロジェクトを立ち上げました。各部署で取り組む施策のほかに、全社横断的なIT化や、部をまたがる業務フローの改善に取り組んでいます。2023年度には、横断的な施策として6件のワーキングチームが立ち上がり、それぞれ成果を上げています。
コスモエネルギーグループの取り組みの中でも、デジタル人材の育成がフォーカスされています。コスモエネルギーグループでは、データ基盤の構築を通じて、可視化・自動化・高度化のニーズを具現化し、ビジネスモデルの変革を促していこうとしています。その中心的な役割を担う「データ活用コア人材」として活躍しようと、当社でも多くの従業員が手を挙げ、知識の習得と実践に積極的にチャレンジしています。このように、新たなビジネス環境を見据えて、活動する人材が増えているように感じます。現中計のスタートにあたり、今までになかった「種まき」が進んでいることを実感しています。
「インテグリティ」と「変革への挑戦」に
よって困難な状況に立ち向かい、
企業価値の向上を目指します
2023年度は非常に厳しい年となりましたが、その中でも中計で設定した目標を達成するための取り組みを実行してきました。今後も、基礎化学品のマーケットは厳しい環境が続くことが予想されます。したがって、市況に左右されにくい収益構造の構築が必至であると認識しています。また、化成品を含む機能化学品については徐々に需要が戻ってくるとみており、特に半導体の市場は高い成長率が予想されています。このチャンスを逃さず、高い目標にチャレンジしていくのと同時に、さらなる成長に向けた投資もしっかりと行っていきたいと考えています。
これからも当社は、「インテグリティ」と「変革への挑戦」で一丸となって困難な状況に立ち向かい、ステークホルダーの皆様から信頼される企業を目指していきます。今後とも引き続き、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。